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人間は、社会生活を送るなかで必ず何らかの役割を果たしているものです。 たとえば、ひとりの女性を見てみると、娘から見れば母であり、夫にとっては妻であり、母親にすれば娘であり・・、ほかにも組織の一員(生徒、会社員)、友人など、さまざまな役割をそのときどきで、演じ分けています。 また、生まれてから死ぬまでを考えれば、赤ちゃん、幼児、学生、恋人、社会人、妻、母、祖母といった役割変化を経験します。 つまり、私たちの人生は役割変化の歴史でもあります。 新しい役割を与えられるときには、それまでの役割を兼ねることもありますが、ときには慣れ親しんだ役割と別れなくてはならないことがあります。 たとえば、プロスポーツ選手が現役を引退して指導者になる。朝から晩まで得意先を飛び回って生き生きしていた営業マンが、人事異動で内勤を命じられる・・・。 こうした役割変化のプロセスは、慣れ親しんでいた環境や役割が満足できるものであればあるほど、本人には辛いものになるでしょう。 そして、新しい環境や役割を受け入れることができず、いつまでもかつての役割にこだわってしまう辛さが増し、ときにはウツ病になってしまうことさえあります。 結婚した女性に関していえば、 「子どもが生まれてから、夫婦ふたりで外食をしたり、映画を観に行ったりできなくなった」という話もあります。これは、母親としての役割ばかりを求める周囲への抵抗といえるかもしれません。 そんなときには、次のようなプロセスで辛さを和らげていきましょう。 ★ 何が不安なのかを突き止める 昔の環境や役割を忘れられない人というのは、古い役割の良かった面ばかりをクローズアップして、悪かった面から目を背けたり、軽視したりする傾向があります。とりわけ心に余裕のないときには、その傾向が顕著になります。 しかし、よく考えてみれば、良かったと思える昔だって、辛いことや苦労はあったはずです。そういう困難を克服したからこそ、その後に栄光や成功を手にすることができ、充実感や幸せを味わえたのではないでしょうか。 今の辛さから抜け出したり克服するには、まず、新しい役割のどこに不安を感じているのかを見つめることが大事です。そして、その正体を突き止めたら、今度はどうしたらそれが解消できるかを具体的に考えてみることです。 先ほどの営業マンの例でいえば、内勤のどこに不安があるのかを突き止める先決でしょう。 もしも、自分の能力に不安があるのなら、それを克服する努力をしてみることです。 本を買って勉強してもいいし、必要なら講習を受けてもいいでしょう。あるいは、同じような経験をした先輩社員に相談するのもいいかもしれません。 もちろん、人によっては転職したほうがいい場合もあるでしょう。 しかしそれも内勤を経験した後にチャレンジしても遅くはありません。その経験は再び営業の仕事に就いたときに役に立つはずです。 また、ひとつの役割にとらわれるのが辛いというのであれば、家庭、職場、趣味、遊びと、それぞれの場面でいろいろな異なった役割を意識して演じ分けてみるようにしてはどうでしょう。 そうすることで、いつも新鮮な気持ちでいられれば、辛さを軽減できるだけでなく、ものごとを惰性で処理したり、マンネリに陥ったりするのを防ぐことができます。さらには、それぞれの役割をよりよくこなせる相乗効果も期待できるはずです。 ★ 新しい信頼関係を築くチャンス あなたが新しい役割を与えられたのなら、それまでとは異なるタイプの人たちと幅広い関係を築くよう心がけることも大切です。 たとえば、かつてのあなたならきっと話すこともなかっただろうと思うような人に、積極的に話してみましょう。また、あなたと同年代の人だけでなく、ずっと年上や年下の人とも、自ら進んで交流を持つようにしてみてはどうでしょう、 そんな人たちと交流するうちに、周りがあなたに何を期待しているのかが見えてくるでしょう。そして、あなたをどんな目で見ているのかも。それは、あなたの自分自身に対する評価とは異なるかもしれませんが、新たな長所が発見できるかもしれません。そうなれば、当然やる気も違ってくるはずです。 そうして新たな人間関係を築ければ、こんな人たちにも出会えるかもしれません。新しい役割を担うということは、新しい信頼関係を築くことともいえます。 ★ 周囲の気遣いも必要 また、あなたの近くに新しい役割に戸惑っている人がいたら、あなたをはじめ周りの人が気遣ってあげましょう。 とくにそうした配慮が必要なのが、近年、日本でクローズアップされている「介護者」という立場です。 この役割を果たさなければならない人は、本人が望むと望まざるとにかかわらず、これからの時代はますます増えることでしょう。なかには、介護者という役割を半ば押し付けられて、精神的に追い込まれてしまう人も少なくないはずです。そして、その多くは女性であることも多いようです。 そうならないためにも、当然ながら、周囲がその人ひとりに仕事や責任を押しつけないように注意することが必要でしょう。「介護は女性がやるもの」という日本人の固定観念が何の根拠もないのは明らかです。 介護というのは、ある意味で、介護される側が介護する人に「甘える」関係にあるともいえます。介護者は、いつも甘えられ、頼りにされる立場にいることになりますから、それが負担になって、ついには「どうして私ばっかり!」と、その責任感や使命感に押しつぶされてしまいがちになることと、その結果、介護ウツのような状態になることだってあります。 それを防ぐには、介護者が「介護にみんなが協力してくれている」と感じられる環境を、周囲の人々でつくってあげることです。 そうした人の存在が、介護する人の心のバランスを保つためには欠かせないのです。 |
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