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この頃ずっと家にいたので、それを主治医に相談すると、外に出て太陽の光を浴びたほうがいいと言われた。 うつは脳内にある神経伝達物質のセロトニンが不足しているため、 感情が不安定になってしまうのだ。 それを太陽の光を浴びることでセロトニンの分泌が活発になり、うつ状態は改善していくということだった。 このことは知識として前もって知っていたが、外に行く気にはなれなかった。 しかし主治医が言うのでそれを実践してみようと思った。 もちろん簡単に実践できるわけはなく、数日は立ち上がっても外に行けず家の中でひたすら寝るだけの生活だった。 しかしある日これではいつまでたっても同じことの繰り返しだと思い、辛い体を引きずって外に出てみた。 その日は夏の炎天下ということもあって、太陽の日差しが強かった。 体がどんどん暑くなって汗をかいてしまった。 それで、ただ玄関の前にいるだけでは近所の人から不審がられると思い、近くの公園まで行くことにした。 その距離は百メートルくらいだったが、それでもむちゃくちゃ遠く感じられた。 一歩一歩の進みが遅い。 時速四キロメートルを一般的だとすると、おそらく時速一キロメートルくらいのスピードで歩いていたのではないか。 ヨボヨボしているお年寄りやよちよち歩いている子供に抜かれることもしょっちゅうだった。 頑張って頑張って歩いてやっとの思いで公園にたどり着いた。 その公園は例外なくブランコがあり、砂場があり滑り台があり、どこにでもある一般的な公園だった。 平日の昼間ということもあり、子供たちの明るい声はそんなになく、一、二歳の子供と母親の組み合わせか、定年退職したおじさんが新聞を読んでいるという光景がよくあった。 私はつっ立っているとまた不審者がられると思い、とりあえずベンチに座った。 もちろんやることはない。 ただじっと座っているだけだった。 夏真っ盛りだったので、とにかく太陽の日差しが強かった。 焼けてしまうのではないかという思いもあった。 あまりに暑いのと体がしんどいのとで早く帰りたかったが、帰ってもどっちみちやることがないので、しばらくその公園に居座ることにした。 少し向こうに日陰のベンチがあったのでそこに座った。 そこからただひたすらぼーっとしていた。 時間が無為に過ぎていく。 全く何もしないし公園でも一人ぼっち。 特に誰かとしゃべろうという気もない。 それはそうだ。うつになったら無口になってしまうのだから。 話そうという気力もなかった。 ただただ時間が過ぎていくのを無心で待っていた。 そこからしばらく家と公園の往復生活をすることになる。 ⇒続き ⇒目次に戻る |
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